第89章

最初の一回は出ず、二回目は通話を切られた。

山下良平が事情を説明するメッセージを打とうとした、そのとき。有川紘樹から折り返しがかかってきた。山下良平は命綱にすがるみたいに、即座に通話を取り、耳に押し当てる。

「有川社長、佐伯さんがジュエリーを一点ご所望でして……店の看板商品で、お見積りは五千万――」

言い終える前に、ジュエリーショップのガラス扉が乱暴に押し開けられた。ひゅう、と冷たい風が吹き込み、店内の空気を一気に冷やす。

入口に立っていたのは、水野佑奈。山下良平を射抜く視線が、息苦しいほどの威圧を孕んでいる。

切れ味のいい黒いスーツ。長い髪は後ろでまとめられ、滑らかな顎のラインが...

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